悪いのは私。それはわかっているけれど―――
「だって、美鶴たちの事だって心配じゃない」
「アイツらが心配なら、俺の話なんてどうだっていいのかよっ?」
「何よその言い方っ 私がコウの事、なんにも考えてないみたいじゃないっ!」
「だってそうだろっ! 夏休みの後半から、夏休み明けてからだって、いっつもボケッとしてて、俺の話なんか聞いてなくって」
「だってそれはっ」
それは、シロちゃんとコウの事が気になって、二人がお互いの事をどう思っているのかって。二人がまた会ってしまったらどうなるのかなって。それが心配で、心配で―――
この想いはコウに話したはずだ。
「俺、お前を信じてる」
その言葉があったから、ツバサはすべてを話すことができた。コウは、そんなツバサを理解してくれたはずだった。ツバサはそう思っていた。
なのに、どうしてそんなに怒鳴るの?
言葉にしようにも想いが溢れてうまく口に出せない。
どうしてそんな目で責めるの? 私がそんなに悪いの? シロちゃんとコウの事を心配してる私だけがそんなに悪いの?
問いたいが、言葉にできない。
悪いのは自分だとわかっているから。それに、もう終わったはずの二人の関係をいまだ気にしている自分がひどく惨めに思えて、どうしても口には出せない。
そうだ。過去や失敗ばかりを気にする自分など嫌いだ。そんな自分を変えたいと思っている。
コウの前でも、そうありたい。コウが辛い時には支えてあげられるような、いつもそんな人間でありたい。
変わりたい。もっと前向きで明るい自分でありたい。昔は嫉みすらしていた兄のようになりたい。
わかっている。気にする自分が悪いのだと、それは十分にわかっている。
わかっているけど、仕方ないじゃん。だってどうしても気になるんだもん。
変わりたいと思う自分が悪いのか? 変わりきれずにいる自分が悪いのか?
泣きたいのを必死に堪えて、ツバサはようやく口を開く。
「コウにはわからないよ」
その言葉に、コウの何がブチッと切れた。
「あぁ わからねぇよぉぉぉっ!」
至近距離で怒鳴り上げ、そのままクルリと背を向ける。そうして大股で去っていく。
行ってしまう。謝らなきゃ。
そう思うのに、声が出ない。
どうしてそんなに怒鳴るのよ。
思うと、ツバサの内にも競りあがる怒り。
「コウのバカァァァァァァッ!」
ありったけの声を去る背に浴びせ、ツバサもクルリと背を向けてしまった。
「なっ 全然おもしろくもない話だろ?」
聡は両手を広げ、パイプ椅子の美鶴と床座りの瑠駆真を交互に見やる。
なぜ夏休みに京都へ行ったのかと問われ、引くに引けずに語る羽目に陥った。回避する手立てはいくらでもあったのだろうが、そこまで頭が回らないのが聡の良いところと言うか悪いところと言うか。
こうもあっさり乗ってくれると、乗せたこっちも気持ちがいいな。などと内心で呟きつつ、黙って聞いていた瑠駆真。美鶴も、興味はないという表情を見せながら、それでも場を離れる事はしなかった。
もちろん、聡は事の顛末を漏らすことなく語ったわけではない。
緩との言い争いや美鶴との学校での一件などはスッパリと省き、ただ実父の死と母親とのすれ違いを理由に義父と京都旅行するハメになったと、できるだけ簡潔に話したつもりだ。
「まぁ俺としてはさ、久しぶりに空手観戦ができて気分転換にはなったよ」
そう締めくくる聡に向かって、だが二人とも反応はいまいち。
「何だよ。言えって言うから話したんだぜ。なんとか言えよ」
「私は別に、聞きたいとは言わなかった」
すっかり聞いておきながらそんな事を悪びれもせず口にする美鶴。
「今ここでそれを言う?」
乗り出す聡に、やれやれと頭を掻くのは瑠駆真。
「いいお父さんじゃないか」
その言葉に、今度は聡が頭を掻く。そのまま頭頂部を撫で、ずいぶんと伸びた髪の毛の上をすべらせて、ポンッと一回膝を叩く。
「どっちが?」
「今の方」
「どうだかな?」
「違うのか?」
「ははっ なんだかさ、いまだに実感沸かねぇし」
別に嫌いではないだろう。最初は義理の親なんて合うのかどうか不安だったから、思った以上に会話できる関係が不思議なくらいだ。
|